Monthly Archive for 4月, 2017

統合医療 美育について

 近い将来、健康管理・疾病予防のための自助努力を支えあうシステムを構築することは極めて重要かつ喫緊の政治課題でもあると言える。互いの価値観や生きがいを尊重して、多様なサービスの中から自分に合ったものを選択できるような仕組みも必要だ。「統合医療」とは、それらを具現化するための知恵であり、政府が進める一億総活躍と地方創生にも繋がる概念である。今回は統合医療の一部である「美育」について少しだけふれてみる。
 熱海にあるMOA美術館(創立者岡田茂吉氏のイニシャルでMOA)は相模灘を見渡す高台に1982年に開館し、国宝3点、重要文化財66点を含む約3500点の収蔵品を有しており、美術品の展示だけではなく、能や茶の湯など和の要素をふんだんに取り入れ日本文化の情報発信や、美を楽しむことを通じて豊かな心を育む様々な活動を行っている美術館でもある。
 当美術館の周辺地区の中学校からの依頼で、上記の「美育」活動を出張授業ということで行っている。校内暴力のあったこの中学校では、生徒たちの情操教育に美育を取り入れ、MOA美術館あるいは関係機関より、国宝「紅白梅図屏風」の実寸大のレプリカを借りて教室に持ち込み、学芸員や指導員が生徒たちに芸術美について説明したり、実際に筆を取って実技を学ぶなどしている。すると普段暴れている生徒の眼にも輝きややさしさが表れて来るのがはっきりと見てとれるらしい。この目つき表情の変化する瞬間がとても大事だという専門家も少なくないという。このような当美術館の取り組みは東京都教育庁にも取り上げられており、今後徐々に拡大していくことが期待される取り組みである。

 さて美育から少し離れて、このMOA美術館の近くにMOA生命科学研究所という施設がある。主に作物が育つ土壌環境についての研究施設であるわけだが、創立者である岡田茂吉氏が提唱する自然農法が、作物に及ぼす影響と同時に、他のダイナミック農法や慣行農法等と比較し、生命力という視点からもその研究に取り組んでいるユニークな施設である。座学においてはやや専門的な話だったため正確に文章にできないのが恥ずかしいところであるが、一部を抜粋すれば、例えば、ジャガイモでも慣行農法と自然農法を比較した場合、前者の根は一本のタコ糸状のものだったのに対し、自然農法による根は人間の毛細血管のように細かく隅々まで張り巡らされている。そもそも土とは、化学性、物理性、生物性という三つの要素から成り立ち、その三つが相互に交わっている状態の土を「地力」というらしい。自然農法は、その「地力」を最大限にまで生かした農法のことで慣行農法のように肥料を与えない分土中の栄養分を作物自ら吸収しようと根が伸びてくるわけだが、この毛細血管のような細かい根と作物が持つ生命力、そしてこの二つが人体に及ぼす相関関係についてはまだまだ解明するところが多分にあるようだ。毎日を生き生きと健康に暮らすためにも、我々一人一人が日常食べているものやまたその食べ物がどのような経路をたどって我々の食卓に並ぶのかを改めて認識し、国民一人一人の健康への自覚を促し、介助なしで生活できる健康寿命延伸のために寄与できるよう行政としても大いに応援して行きたいところである。