美術館と祖父の思い出

足立美術館に行ってきた。
年間来館者数は常に国内トップクラスを誇る島根県安来市の足立美術館である。米子鬼太郎空港から車で1時間弱の片田舎にある美術館だ。この足立美術館への興味は個人的には大きく分けて二つある。まず一つ目は美術館そのものが持っている魅力、つまり展示している絵画や収蔵品、また足立美術館でいえば隅々まで手入れの行き届いた日本庭園だ。そして二つ目は、多くの方がそう思うように、なぜこのような(こう言っては申し訳ないが、とお断りして)辺鄙な田舎にある美術館の年間来館者数が50万人を超えているのかということだ。
 足立美術館は、別名「大観美術館」と言われるように横山大観の作品を多く収蔵している。「名園と横山大観コレクション」すなわち日本庭園と日本画の調和は、足立美術館創設以来の基本方針で、それは日本人なら誰でもわかる日本庭園を通して、四季の美に触れていただき、その感動をもって横山大観という、日本人なら誰でも知っている画家の作品に接することで、日本画の魅力を理解していただく。そして、まず大観を知ることによってその他の作品や画家にも興味を持っていただき、ひいては日本画の美に接していただきたいという、創設者足立全康氏の強い思いが美術館全体を通して今も脈々と息づいている。このように、多くの来館者を魅了してやまないその魅力の根幹には、時がたっても色褪せることなく、美術館そのものが氏の思いを忠実に体現できているからだろう。そしてその氏の思いを裏付けるように、米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズガーデニング」での美しい日本庭園の第1位に11年連続で選ばれており、また昨今のインスタ映えの流行も追い風となり、この名園を訪れる人は後を絶たないのである。実際、日々の雑務に追われ美術芸術に程遠い生活をしている私のような人間でも、横山大観の「紅葉」、上村松園の美人画「娘深雪」、その他多くの優れた日本画を余すところなく堪能し、入場してから2時間後の美術館をあとにする頃には、もう一度来てみたいなぁと思ってしまうのである。
 余談だけれども、私の祖父は絵心があり、名十巻もの日本画の図録も本棚にいっぱい並んでいたし、私が子供の頃は暇があれば、朝顔などの花木や源頼朝などの武士など、よく日本画の模写をしていた。そんな祖父の美人画の好みは伊東深水。祖父は平成10年に89才で亡くなったが、祖父と一緒に来てみたいなぁなんてこともいつの間にか思っていたのだった。

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